
夢の中にメロディアスな球体魚眼が出て来た。球体魚眼は、無数のブラウン管の前で指揮をとりながら、空気中に溶け込んだ調味料を鍋の中でオパールの色彩と混ぜ合わせ、壮大な味のオーケストラを奏でていた。
そして僕のお皿にその不可思議なトマト色のスープを入れると、そのスープを飲んでみなさいと囁く。
そのスープを口に運んだ瞬間、僕の舌の上の奥にはまるで泡や卵のような無限空間が広がった。と同時に、僕はそのスープに溶け込んでいる信号が、昔ラジオで聞いていたある放送局の周波数と同じだということに気がついた。
「びすみらっひあらはまーにあらひーみ!!これは、何ということだ。このスープに溶けているのは、空気中を飛び交う僕の大好きな球体幻楽の味じゃないか!!」そう叫んだ時、魚眼はにわかに回転し始めると、お経を唱えながら不気味に笑った。
僕の眼ももはや魚類化していた。そして、瞬間的にとんでもないアイディアが開門してしまった。
「そうか!これはサイケデリッシュ・ジョッキー、匂いの振動だ!!これはスープの合成によるスペース・マウディ・オーケストラの産卵なんだ!!」僕は叫んだ。
そして、僕は指揮棒を手にし、鍋の中の熱く煮えたぎったスープを掻き回し始める。
調理テーブルの上に並んだ様々なスパイス、脳内麻薬、バルサミコ酢、料理酒、魚オイルを加え、強火でじっくり加熱する。さながら電管イリュージョン。色彩を変えながら泡立つスペース・マウディ・スープは、激しく煮立ちながら青紫の匂いを吐き出し、その蒸気は空気中に浸透していく・・。浸透していく・・。

やがて僕は電気アンプにラジオ・チューナーを繋ぎ、ダイアルを回して昔聞いていた周波数にチューニングを合わせた。
するとなんとも興味深いことに、スープに溶け込んだ球体幻楽の響きは、僕の加えた香辛料によって見事に幾何学的化学反応を起こし、新たな球体幻楽のオーケストラとなって、空間を包み込んだ。
これが、球体魚眼のスープをもとに僕が開門した味の蒸気浸透による音楽の空中氾濫だ。(汗)
僕は嬉しくなり、鍋の中に更にラム肉や紅茶、ソムニウム・ココットを加え、更にスープの味を多彩に変化させていった。すると、ラジオからは、自分の潜在意識と宇宙の背後に隠れていた、遠いようで懐かしいメロディーが紡ぎ出され、僕は次の瞬間、月や風や記憶といった透明なものに吸い込まれていくような感覚に襲われた。

そして、脳の味噌の奥はオパールの色彩と無数の赤色イクラに満たされ、同時に爆音の球体魚眼オーケストラの中へと没入していった。やがて意識は回転しながら時間と空間の交差点に消滅し、耳の奥の穴を通って、海の中に溶け込んだ。
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