長いけど、この話載せちゃお。
2009年の最後、僕は不思議な紋章のある料理店の前にいた。そこで色んな偶然が重なって、気づいた時には同世代の若者5人がコタツに集って年越し蕎麦をつついていた。皆大学はバラバラで理工学部や文学部。けれども年がだいたい同じだったので、2000年代の思い出話で盛り上がった。振り返れば僕らの思春期は2000年に始まった。そんな僕らの共通の記憶・・そこにいたS君はこう言い放った。「やっぱりインターネットじゃない?」確かに。僕らはインターネットの成長過程ともに育ってきた。
「インターネットは体験を生まない。」そういった批判的な言葉をよく耳にする。でも僕らの記憶では、ネットの登場はひとつの体験だった。I君は言う。「初めてネットにアクセスして、アメリカのNASAのホームページを見た時の衝撃は忘れられない。それは魔法だった。」そしてその頃のネットは有料で、短い時間しか閲覧できなかった。けれどその制限が逆に想像力を掻き立てた。或は僕とK君は、あのアクセスする時に鳴り響く音に感化された。ピポパポ、ピー、ガーというノイズを聞いた時、「ああ、いま目の前の機械が世界に電話をかけている。そして、家から現実世界に張り巡らされた電線へと繋がっていく・・」という興奮があった。それらはもの凄く新鮮な出来事だった。
そんな中で変動も目の当たりにしてきた。僕は少数の例かもしれないけれど、どんな音楽が入っているのかとドキドキしながら買って来たレコード盤に針を落とすことはなくなったし、好きなバンドのレア映像VHSを必死になってゲットするということもなくなった。今やネットに慣れ親しむと、情報の多くが過去に比べて容易に手に入る。それは超便利で、ものをつくる人にとっては多数の人に作品を見てもらえ、人類が共有できる知的財産の宝庫として確かにただならぬ可能性を感じる。
けれども、一方で「知ってしまえる」ことによって失う体験は沢山あるよねえ、とS君は言う。ものづくりで言えば、「やりつくされている感」というのを感じる瞬間があると言う。インターネットは飽きることなく世界の面白動画を探索できるけれど、同時に見過ぎることで驚くことへの耐性や何かをやる時に「既に誰かがやっているしー」と躊躇しちゃう感覚があるんだよなあ、と彼は続ける。そんな会話を半分寝ながら聞いていた文学青年Mが、突然目を開け、ガバッと立ち上がると、口も開けた。
「ニーチェ大先生は、周りは気にするな、無垢な創造性を発揮しろって言ってるから。」
そう彼は言い残すと、「あ、俺バイトだ、帰らなきゃ。」と言って去って行った。ニーチェ大先生が本当にそんな風に言ったのかは勉強不足なのでわからないけれど、ふとスイッチを変えて見渡せば、常に身の周りは驚きに満ちているし、誰かの影響だろうが、誰かがやっていようが、つくりたい時はつくりたい。 手を動かしてやってみることの方が楽しい。そして、「全然何もわかんねーよ!」と根源的な問いを復活させれば、あらゆるものが新鮮に見えてくる。
すると僕は突如立ち上がり、ラジオのチューニング・ダイアルを回しながらこう叫んだ。「エクアドル・・エクアドル・・電離層が空に広がる頃、僕はエクアドルからの放送電波をキャッチしたのだ。遠い場所から発せられた透明な信号が、この部屋にもある。そして、この空気中に音が溢れているということ、このラジオはそれを常に教えてくれる魔術の箱なのだ!」
そうしてラジオをギターアンプに接続し、小型電子銃からサイン波の信号を出力させた僕は、その波と空間に満ち溢れる放送電波とを空気中でミックスさせながら、ジョン・ケージに想いを馳せて即興で"Radio Music 2010"を演奏しようとした。しかし、その時日本の空気中に漂っていたのは、1月1日の幕開けを祝う雅楽の演奏だったのだ。その雅楽はラジオのダイアルを回すことによって「ギュワイーン」と奇妙に変調し、これがまるでCage meets Jimi Hendrixだったもんだから、K君はその音を聴くなり、こう言ったのだ。「これは"Radio 雅楽 Experience"だ」。
MP3"Radio 雅楽 Experience" / Radio Tuning Dialing by Ei (2010.1.1)
※音量にご注意ください。
かつてQueenの"Radio Ga Ga"はこう歌った。
「必要なことはみんな、ラジオから知ったんだ。」「君は思わせてくれたよ、まるで僕らは飛べるんだって」
メディアが人々の意識に与える影響。マクルーハンが「グーテンベルグの銀河系」を描いたみたいに、僕らは後に「インターネットの銀河系」に登場する世代になるはずだ。その先に、「身体性の復興と新たなる創造性」の章が加わるかどうかは、昨今を生きる人々の行動にかかっているっ!
新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
1 comment:
ラジオ、鬼かっこよっ!!!!!
Post a Comment