
人間の設計図であるDNAは、ATGCの四つの塩基の配列から成っていて、その情報量は、たった1ギガバイトしかないといふ話を生命情報論の授業で教わった。その1ギガバイトの暗号を解読してタンパク質が合成され、最初はたった一つの細胞(受精卵)が、分裂を繰り返しておよそ60兆になり、我々の知的生命システムをつくりあげているという。
1ギガバイトの四つだけの塩基配列に、その人の先天的な設計図(情報)の全てが書き込まれているということが、どれほどの驚異かということは、もはやここであえて語るまでもなく、想像を絶した神秘である。
そしてこのシステムは、40億年という途方もない年月をかけて、偶然的に重なり合って起きた自然界の奇跡的なプロセスが導き出した産物であり、この生命システムの誕生は、猿が何も考えずにタイプライターを打って、シェイクスピアの長編小説を書き上げてしまう以上の確率の奇跡的現象なのだそうだ。これを数学者が計算したらしいのだが、10の1万乗分の1だという。これはもはや限りなく0%であり、これがどれほどの驚異なのかと想像する前に、ぶっ飛び過ぎてて想像力がついていけない。

確率が0でない限り、どんなことでも起こりうるから生命の誕生はそう不思議なことではないと言う人もいるが、ネズミが太陽に行って帰って来て生きている可能性も0ではない。
壁の原子の動きと人間の体の原子の動きが天文学的確率でぴったり合えば、壁をすり抜けることだってあり得る。そしてここまでくると、コインが表か裏になる可能性は50%ではなく、もはやカオスむーにょ。
とにかく、とんでもないことが起こっているようだ。警察に通報した方がいいかもしれない。
それにしても、進化というのは「偶発的」な突然変異によって起こると一般的に考えられているが、ここまで発達した知性や自意識、理性といった精神宇宙に発展したのは、とても「必然的」な匂いがぷんぷん漂ってくる。
そして、唯物論的に物事を捉えると、僕達の精神活動は、単なる物質の運動でしかなく、生命は機械にすぎない。つまり、単なる物質の運動からあらゆる精神的活動は生まれているというわけだ。
しかし科学者や哲学者によっては、「精神から物質は生まれたんだ!」と叫ぶ人も多い。つまり、この宇宙は何らかの「最高精神」によって満たされていて、その精神が物質、時空、宇宙を生んだという考えだ。
自然界に溢れるありとあらゆる数学的な美や秩序、それを見て人間は、そこに宿る何らかの「精神性」を感じ、そのような最高精神(スーパーパワー)の存在を感じてきたのかもしれない。
どちらにせよ、とにかく我々がここにいるといふことは、驚異的な現象だ。あまり関わりたくないな、こりゃ。いや、もはや香を焚き、瞑想し、自らの精神を宇宙=最高精神と合体させ、そして・・そして・・まあそんなことはどうでもいい・・。

そこで、この話を授業で聞いて僕が考えたことをここに書き留めておきたい。
昔、僕がLPレコードの仕組みを知った時に感じた神秘性や感動が、この話とどこかでリンクした。
レコードは、音楽(音)の振動をそっくりそのまま溝に彫ることで、そこに針を当てた時に同じ振動が再現され、音楽を再生できる仕組みだ。つまり、レコードに指の爪を立てれば、爪から音楽が聞こえてくる。
この仕組みを小さい頃に教わった時、僕の脳の味噌の裏側の奥でカチッと何かが噛み合う感覚があった。音というものの持つ「波」を、「溝」に変換することで、この世の全ての音色を記録できる。そのあまりに単純明快で必然的な仕掛けがとても興味深く、悶絶刺激的だった。
顕微鏡で見ればたった一枚の黒い盤の上に走る溝に過ぎない。しかし、それを再生すると、感情を揺るがすほどの壮大な音楽の響きが姿を現す。もしも、その記録の方法や変換の方法の分からない宇宙人がそのレコード盤を見たら、何と言うだろう。きっと、「一体何故こんな単純な暗号から美しくも複雑な音楽の音色が生まれるんだ」と言うかもしれない。
つまり、物事というのはそういったある種の二面性を持っている気がする。結ばれる像と、それを記録する為の暗号。或は法則。ある見方をするととても単純に見えるものが、違う見方に変換すると、とてつもなく複雑なものに姿を変える。しかし、それらは再生機を介してイコールで結ばれる。コンピューターが0と1だけで全てを計算し、画面に像を映し出しているといふのもこれに似ている。

つまり、僕たちが感じている驚異といふのは、ある瞬間にふっと消え去るようなものなのかもしれない。この宇宙は、カオスと秩序といった異なる姿のものが、実はどこまでも同じ存在となって渦巻いていて、同じものが姿を変えながら現れては消えて、現れては消えているような気がする。
最高精神といふものは、その有も無も共に包み込むような存在なのかもしれない。いや、もはやそれは精神でも物質でもなく、ここに新しい言語として定義づける必要がある。
そうだなあ、どうしよう。あ、こんなのはどうかな。
「謎トロニカ」。
まあそんはどうでもいい・・。
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