僕がストロー楽団の不思議な音楽を聴いたのは、青い月が割れて夕暮れが空に零れ落ちた時。弦楽器から奇妙に突き出た金属ホーンラジオは、100億年の月夜と通じていて、弦を奏でると紫色の泡ぶくと一緒に音が出る。19世紀中頃にクルクタールの魚眼科学者によって考案・製造されたこの楽器は、19世紀後半にはユーロピアの各地に伝わる(上の映像を参照)けれども、各国の近代化に伴って音楽文化も大きく変動し、長い年月を経て、今は発祥地であるクルクタールでしかその音色を聴くことはできなくなってしまった。
この弦楽器を演奏する楽団は、ストロー楽団と呼ばれていて、海山羊に跨ってクルクムパゴダを巡礼しながら、各地で古代のクルクム音楽を奏でる。楽器職人達は日々新鮮な月夜の泡を拾うためのストローホーンの製造に追われている。電気の魔術が音楽に大きな影響を及ぼしたジャイーラの地域とは対象的に、電気を使わずに宇宙の音をチューニングしようとする魚眼科学が生きているのがクルクタールの大きな特徴だ。
青い月が割れて夕暮れが零れ落ち、街に聳えるパゴダが赤紫色に染まっていく頃、ストロー楽団の奏でる懐かしい音楽が聞こえてくる。それはとても深く、神秘的で、僕はその風景をすぐに図形楽譜としてスケッチブックに書き留めておくことにした。僕の描いた図形には、音楽の第四風景が吹き込まれていた。


Picture from http://images.google.co.jp/images?gbv=2&svnum=10&hl=ja&sa=X&oi=spell&resnum=0&ct=result&cd=1&q=stroh+violin&spell=1
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