Wednesday, May 28, 2008

裏側の世界を探る方法論

 


裏側の世界を探る方法を思いついたので、ここに書き記しておきます。以前、僕はテレビの映像端子に音声を間違えて入力し、その時に現れた砂嵐を記録してもう一度音に変換し直す、という実験をやってみたことがあります。
 

Youtube - The Mystery of Electric Signal
 

 
その結果、テレビに映った砂嵐(バーコード)は、音程・音色・音量をある法則に基づいて(テレビの仕組みに基づいて)映像に変換したものだということがわかりました。その時はそれだけで驚いてしまい思いつかなかったのだけど、最近「この映像にエフェクトをかけてもう一度音に戻したら、どのような影響が「音として」起こるのか?」ということに興味が湧いてきました。
 
最近見つけた作品に「回転」という面白い作品があります。これは氷に音を記録してみるという実験的な作品です。実際に作家がどのような意図でつくったものなのかは実物や映像を見ていないので詳しくわからないのですが、これを見た瞬間、僕の頭の中には「音が時とともに消えてゆく・・色即是空・・」というロマンチックで儚いイメージと同時に、"情報"がもつある面白い構造に気づきました。
  
氷という素材でできたレコード盤には、「溶ける」という概念が発生します。回転するレコード盤がやがて時とともに「溶けて」いくと、それにともなってそこに記録された「音」も「溶けて」いきます・・。一方の情報メディアに存在しなかった「概念」が、メディアの違いを越えて立ち現れる、という構図がとても興味深く、興奮して変な汗をかいてしまいました(汗)。
 
もうひとつ面白い話を最近菊地成孔さんの講義で耳にしました。それは「下方倍音」というブルースやジャズの調性原理を解明しようとするカルト的な音楽理論に登場する考え方です。
 
通常、ある楽音に発生する倍音は、ルート音(基準となる音:基音)よりも高い音によって構成されます。つまり、「"上方"倍音」。ガーンとピアノでドの音を弾くと、幽霊のようにオクターブ上のド、ソ、更にオクターブ上のド、更に・・という具合に倍音が聞こえてきます。この倍音構造に基づいて12平均率西洋音楽の基礎的な理論体系(12平均率や和声等)は生み出されていると彼は説明します。これらは科学主義志向の強かった19世紀において、「音響物理学」の発達とセットで編み出された理論、と見ることもできるとか。
 
しかし、20世紀になり、ジャズやブルース、現代音楽、ノイズ、といった多様な音楽表現が生まれる中で、既存の西洋音楽理論ではそれらの響きから生まれる独特の「調和」を説明できなくなってきました。そこで、本来物理的には存在していない基音より下に伸びる倍音列=「下方倍音」を空想として設定した上で、新たな音楽理論体系を築こうとする動きが生まれたそうです。実際には存在していない「虚数」を設定するによって、現実に表出されていない「無意識」或は「裏側の世界」の構造を探り、それを含めて現実を分析しようというわけです。事実、この「下方倍音」の考え方により、ブルー・ノートにおける調性は説明がつくと言います。(本当かどうかは詳しく勉強していません。)
 
菊地先生は、20世紀の学問は、フロイトの精神分析学や社会学における「構造主義」など、共通して「目に見えないもの(虚数)を仮にあると仮定して現実を解明しよう」という姿勢を見ることできると言います。こうした学問的な探求は、徹底した19世紀の科学主義の反動として現れた学問かもしれません。とても興味深い話でした。
 
実は、僕の中で関係のないこれら2つのことがクロスしたのです。
テレビで音を映像に変換した時に現れる奇妙なバーコード。その映像を「映像にしか存在しない概念」に基づいて加工し、音に戻すとどのような変化が音に加わるのでしょうか?例えば、白黒の砂嵐なのだから、白黒反転させたら音はどのように変わるのでしょうか?音にネガとポジは現れるのでしょうか!?裏側の世界に流れている音を聴くことができるのでしょうか!?
 
かなり勝手な仮説で、勝手に結びつけている気がするけど、面白そうです。メディアの壁を越えて一方のメディアに立ち現れる法則性を確かめてみたいです。しかし、実際にやってみようと思うと問題が発生。アナログのノイズをパソコンは読み取ってくれません。早速裏側の世界を覗くのを妨害する不思議な力が働いているみたいです。アナログの電気信号に潜む奇妙で透明な幽霊。是非、この文章を読んで興味を持った方は、自分なりの方法で裏側の世界を探求してみてください。
昔、逆再生をすると声が聴こえる、というピンクフロイドの曲があったけれど、映像に変換して白黒反転させたら声が聴こえてくる音とかあったら、怖いんじゃないだろうか。裏側の世界・・裏側の世界・・。
 
Link
・倍音について
・下方倍音について「ブルー・ノートと調性/新たな調性世界を求めて」
・光通信について「光通信の仕組みと実験」
 

2 comments:

generativelives said...

「ブルー・ノートと調性」最近買ったよ(高い!)。音楽のお話としては最高に面白いけど、これをもとに音楽を作るのはなかなか難しい気がする。

Ei Wada said...

高いのか!!是非読んだらわかりやすく説明しておくれ。確かに理論をすぐに曲に応用するというのは難しそう。やっぱり感覚大好き!!笑