Tuesday, December 23, 2008

グーテンベルクの銀河系

 


In The Gutenberg Galaxy
 
 大学の授業に行ったらいつの間にか冬休みに突入していた!!家に引き返すわけにもいかないのでそのまま懐かしの湘南藤沢キャンパスへ。久々に社会理論をやっている研究会にもぐった。今日は『グーテンベルクの銀河系ー活字人間の形成』(Marshall McLuhan 1962) という本について。先生曰くこれを越えるメディア論は未だに現れていない名著であり現代の奇著なんだそうな。教授はにわかに立ち上がるとまるでオーケストラを指揮するかのように両手を交互に振り回し、歌い、教壇を何度も叩きつけながら踊り狂い、この本の面白さについて熱弁していた。(この先生はかなりアーティスティックで飛んでいる先生なのだ。)
 
 この本はグーテンベルクという発明家が15世紀に開発した大量印刷可能な「活版印刷技術」がその後の人間の思考、精神、知覚、社会、文化形態にどのような影響を与えたのかという話だ。著者のマクルーハン曰く、文字的世界像・視覚情報の強調を促進する活字=書物の文化が広まることによって、未開の時代に発達していた口語文化が解体され、それ以前まで一体だった五感全てで捉える世界像が分断されて人間は慢性的な分裂病的心理状態になってしまったという・・!更に線形的思考が養われることによって相対的に人間の感受性は薄っぺらになり、記憶力が変容し、空虚な時間や空間という概念が生まれ、また、言語の均質化によってナショナリズムが形成されていく、等のプロセスが論理的展開なしに、ポエティックに、そしてカオティックに語られているみたい。この本を読むと、現代の世の中が全く違ったように見えてくるという。今日はその片鱗だけでも聞けてジンジンと脳天が温まった。さすがに15世紀までトリップすることになるとは思わなかった。
 
 それにしても時代や環境によって本当に人間の思考や感覚は変化するのだろう。ここ最近は急速なテクノロジーの変化によってそれを既に自分達の親の世代の思考とのギャップでも感じるけれど、そのスパンが数百年になったらもはやそれどころではない。ある人達から見れば、僕たちの社会常識は頭のおかしい宗教だと言われるかもしれない。そういえば僕は小学校高学年の頃に「円」の面積の求め方がどうにも中途半端で腑に落ちなかったり、線と線の交わる一点って本当はどこなんだよ、とテスト用紙を凝視して理解に苦しんだことがある。線も点も面も円も細い線も点々も実際よくわからなかった。(本当は正確な円も三角形も平行線も現実世界には一切存在しない、ということをちゃんと認識したのは実は大学になってから。人間の頭の中に広がる抽象化された概念の世界。そういえば0の除算に関する話はとても面白い。)数学が近代的で線形的な思考なら、そういう思考形態をとらない時代の人々は数学の考え方に対してもっと素朴で多くの疑問を感じるんじゃないだろうか。
 
 DNAは人生で経験したことを次の世代に伝えない。大きな突然変異が起こらない限り生命体としては全然「進化」していない。けれどここ数百年で人間を取り巻く環境は急速に変化(進化)してきている。メディア、教育、生まれ育った環境、というのは先天的なものよりも強い影響力があるのだなとつくづく感じる。身の周りの当たり前だと思っているものが、実は全然自然状態ではなくて、人工的に、或は意図的に作り出されたいわばファンタジーのようなもので、僕たちはそういうファンタジーの世界に生きているんじゃなかろうか。「長いスパンで考える」というのは、意識的に「記憶」と「今生きている世界」を越える旅行なのだ!そもそも今あるようなテクノロジー(一秒単位で刻む時計とか、活版印刷技術とか、ここまで整ったインフラ、メディア)や思考形態なんてなかった、日本で言うと明治以前は「日本という国」や「我々日本人」という近代国民国家(そういう発想自体が明治にできたものなんだとか!まじか?)の概念、身分に拘束されない自由で平等な「個人」という考え方、読み書きができる今のような「国語」というものがなかった、というところから考えると、世の中は確かに違って見えてくる。
 
 僕は今大学3年生。社会(経済ワールド)に出る準備を整えている。「0が一桁増えると幸せ」「さあ自由競争だ!!」という資本主義的世界観の渦に引きずり込まれながらも、少し旅行をして、ああ、近代人はこうやってここまで今の世の中を築き上げてきたのかあ、と思うとなんだか不思議な気分になってくる。ただし、あんまり旅行しすぎると、徐々に社会不適合者になってしまうので要注意・・と言いたいところだけど、もし社会が病んでいたら、そこに幾ら適応したって実はしょうがないんだよなあ。さて、僕はどうやって本当によく考え、そして皆とともに良く生きていこうか。探求は続く!!(画像出典:Wikimedia Commons)