Sunday, November 29, 2009

Beat Vespa Tele Beat

 

 
"こんな時代だ、会社や誰かにぶら下がって生きるより、俺達にしか出来ない、創れないなにかをして生きていこう。今日より君との業務提携(変態産卵)を締結する。ユニット名は次回のミーティングで。"
 
突然上記のようなメールが僕の高校時代の友人より届いたのはある冬の晴れた日のことだ。かと思うと直後に、"あ、もしもし?今日日が暮れたら俺の可愛いCRAZY VESPAに乗って暴れにいくわ。"という電話がかかる。困る筆者。けれどもその日は雲がゆっくりと流れ、陽の光が肌寒い町を明るく照らし、埃を噛んだレコード針が再生するドン・チェリーのポケットトランペットが最高に良かったので、"おう、遊びに来なよ!"と彼を誘ってしまう。
 
それから数時間後、月夜が空に広がる頃、奴は予告通り赤いVespaに股がり、エンジン音を闇に響かせながらやって来た。荷台にはいつものようにシャープ製のラジカセ、サーチャーがくくりつけられている。
"お待たせ、お前に沢山の音土産持ってきてやったぜ!"
 
彼はエンジンを止めると、僕を見てそう言った。その時、魔法がそこで展開されたのだ。ライトが消え、鍵を外したはずのVespaから、エンジン音が鳴り続けているではないか。そう、彼はラジカセから音楽をかけていると思いきや、あらかじめテープに録音(サンプリング)しておいた自らのバイク走行音を鳴らしながら来たのだ。こいつのセンス良すぎの変態さ加減には脱帽。まさか自らの走行音のみでセッションしながら登場するとは思わなかった。
 
 

 
そして何よりも素材としてVespaのエンジン音を欲していた筆者にとって、それは何よりも嬉しいお土産だった。その後、彼が集めてきたという様々な音の風景を聞かせてもらった。ブリブリブリ、ぶおーんという移動中の音の合間に、何気ない鳥の鳴き声、疲れ果てた人々を乗せているだろう電車がガタンゴトンと遠くを走り去る音が入り込む。"ああ、超いいじゃ〜ん"なんて言いながら二人でスピーカーから聞こえる情景に想いを馳せる。
 
そのうち彼が、"おい、こんな聞き方で満足していいのか?音のシャワーを浴びてみろ"と言うと、にわかにラジカセを持ち上げると、彼は頭の上にラジカセをセットしてこう言う。"あ〜音のシャワー気持ちいい〜"
 
 
音のシャワーを体験する筆者

 
もちろん筆者も体験させてもらったが、とても心地良い。カセットをB面にすると、スタン・ゲッツのサキソフォンが心地よくスピーカーから耳に降り注ぎ、それは至福の時であった。こうして僕らは、更にラジカセにエフェクターを繋ぎ、アンプから歪んだバイクの音を出し、テレビの砂嵐をリズミカルにスイッチングさせて演奏し、ゴミ捨て場で拾ったドラムを叩いてセッションを繰り広げるのだ。僕らはその儀式をこう呼ぶ、"Beat Vespa Tele Beat" !!
 
 
Photo by Ryo Fujimori

 

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